2017年03月23日
内外政治経済
常任参与
稲葉 延雄
多くの企業は今春のベースアップをどうするか検討に入っている。ベースアップを決める際の重要な要素である企業業績や労働需給、足元の物価情勢などが基本的に昨年とあまり違わないので、「本年のベースアップも前年並みではないか」との見方が多い。こうした中で、「従業員の事業貢献に報いるためには賃金だけでなく、働き方についても働きやすい環境づくりに向けて改革を進める必要があるのではないか」との議論が急速に高まっている。
もちろん、これは過労死の防止とか長時間残業の廃止という喫緊の課題解決に触発された面もあるが、それだけではない。というのも昨今、人々の間で豊かさへの感じ方が著しく多様化してきており、単に所得増だけでは従業員の満足度向上が十分には図れない傾向が強まっているからだ。
言い換えれば、人々が日々の生活の面で満足度を向上させるためには、労働と労働以外の生活の大事な営み、例えば育児や介護、さらには自分自身を高める様々な活動などと両立できるような働き方の改革が求められている。
幸いデジタル化の進展により、自宅やサテライトオフィスなど社外での勤務に関しても、適切な勤務実態の管理が可能になった。企業はこうした管理技術の変化をうまく活用して、例えば育児や介護とも両立する在宅勤務などをもっと提案すべきであろう。従業員一人ひとりのライフステージや生活スタイルに応じて多様で柔軟な働き方を提案し、それを事業展開に活かしていける時代を迎えたのである。
小規模な実験で得られた知見でも、事業所において一人ひとりの実情に応じて当人にふさわしい働き方を選択してもらうと、人々は様々な不安から解放される。そして作業効率や生産性はむしろ上昇するとの結果が出ている。働きやすさの追求と労働投入の効率性・生産性の向上は、実は両立するのである。
企業内の様々な作業現場から、実情に即した働き方を巡って盛んに提案が出されて試行が行われる。それが有用な提案であれば、他の作業現場でも応用することができる。働き方改革は、こうした自律的な形で全社に及んでいくことが理想である。
稲葉 延雄